現存する日本の住宅の90%以上で外壁内構造材は腐朽・蟻害の危険性に曝されており、建築基準法施行令49条2に違反した違法住宅である。この事態から脱却するためには、外壁内構造材を簡易な手段で防腐防蟻処理し、その効果が長期間持続し、主要な住宅構造材を腐朽、シロアリから守る必要がある。
ホウ酸塩は、木材中の水分を媒体として、濃厚部分から希薄な部分へと拡散する性質がある。ニュージーランド政府は20世紀の半ば、DOT処理を条件に、木造住宅の2×4材として人工林のラジアータパイン材への切り替えを認可した。ラジアータパイン材は、まずDOTの濃厚溶液に浸漬され、次いで木材の乾燥を防ぎながらターポリンに覆われた状態で2か月ほど放置される。この放置過程で表面のホウ酸塩(DOT)は木材の中心部に向かって拡散する。
同じ現象は、スピードは遅いが、住宅構造材を現場処理することでも起こり得る。米国のNISUS社はBoracareに含まれるエチレングリコールとポリエチレングリコールとが有効成分DOTの中心部への拡散を加速すると主張している。また、米国のKop-Coat社はTANO化合物(第3級アミンオキサイド)が同様の効果を持つと発表している。
Nisus社は、カンザイシロアリの防除対策として、外壁内装に径6㎜の孔をあけ、そこからBoracare溶液をミストあるいは泡の形で注入している。同じ手法は外壁内構造材の防腐防蟻処理にも応用できるはずである。以下、日本化されたツーバイフォア構造について議論するが、理由はツーバイフォアが単純で計算しやすく、在来工法も大同小異であると考えてよいからである。
典型的なツーバイフォア住宅の外壁構造では、内部の空間は長さ約2.4m、断面3.8×8.9㎜の柱2本と上下に置かれた同じ寸法の土台と梁に囲まれた体積89.1リットルのセルで構成される。ただし、各々のツーバイフォア材は、両側のセルに50%ずつ属するとした。以上の条件下では、セル当たりの木材の表面積は外壁外側の合板の表面積も加えて15,000㎝ 2 となる。このセルにDOT水溶液をミストあるいは泡として吹き込み、通常言われているいるように、表面積10000㎝ 2 当たり110㎖のDOT水溶液が付着すると仮定すれば、必要な溶液量は165㎖となる。セルを囲む木材量は25.1リットルであり、木材の平均比重を0.4とすれば重量は10㎏となる。従って、吹き込んだ水溶液の水分が全部木材に吸収されて、含水率の上昇は高々1.65%である。含水率20%の木材がこの程度の水分を吸収しても腐朽は起こらない。
また、20%のDOT水溶液(比重1.12)でセル木部内面を処理するに必要な水溶液165㎖中のDOTはホウ酸に換算して44.4gとなる。セル1個当たりの木材は25.1リットルであるから、木材の平均処理濃度は1.78㎏/m 3 BAEとなる。この量は、地下シロアリ防除には不十分であり2度処理が必要である。ただし、腐朽菌、アメリカカンザイシロアリ、材食性甲虫などの防除には十分である。
Nisus社のカンザイシロアリ防除説明書では、セル上端近くに径6㎜の孔を3個、下端中央部に1個あける。水溶液の吹込み量は、1セクション(セル)当たり、断熱材のある場合は200㎖、ない場合(屋内の壁)は120mlである。断熱材のある場合は泡処理が普通であり、ない場合はミスト処理を行う。
結論として外壁内部の木材を防腐防蟻するためには、セル上端近くに3個、下端に1個の孔を穿孔し、ここから必要量のDOT20%水溶液を気泡として注入すればよい。注入による木材の含水率の変化は2~3%程度であり、乾燥は自然乾燥でよい。断熱材を充填していない壁の場合はミスト処理でよい。