木造住宅の大敵は、シロアリと腐れです。シロアリが住宅を食害する場合、水が必要です。日本には、ヤマトシロアリとイエシロアリが住んでいますが、ヤマトシロアリは水を運ぶのが下手です。その被害は、盛土をする玄関や風呂場から数メートルに限定されます。水を上手に運ぶイエシロアリは、屋根組まで食い荒らすことがあります。
木材を腐らす腐朽菌は、胞子を空中に漂わせ、適当な温度と食料(木材)、酸素、水があればいつでも活躍できます。結論として、乾燥した木材は、腐れやシロアリに強いことになります。乾燥状態を保てば、古い住宅も長期間使用できます。
総じて、昔の日本の住宅は、床下を風が吹き、部屋の中でも隙間風が吹いて、冬季には関東地方でも家の中で氷が張ることもありました。寒いことを除けば、腐朽や蟻害を防いで案外長持ちしたものです。江戸時代の住宅が、今日でも使用されている所以です。
事態を一変させたのは、1950年の建築基準法です。地震や台風に強い住宅を実現するため、木造住宅の土台(断面12㎝四方の角材)は、図1のようなコンクリート製布基礎にボルトで固定することが義務づけされました。この結果、床下空間は独立した空間となりました。露地からの湿気は土台や床組みの木材に湿気を与え、腐朽・蟻害の被害が激増しました。シロアリ駆除会社が雨後の筍(たけのこ)のように生まれたのも1950~1970の頃です。
床下湿気問題は、通風孔、防湿コンクリート、防湿フィルム等による床下環境の変化や、殺虫剤(クロルデン)の散布などで1980年代には解決しました。
しかし、クロルデンが禁止されたのちも新しい農薬が防腐防蟻剤として認可された結果、構造材に農薬系防腐・防蟻剤を直接散布するという弊害が既成事実として定着しました。
その後、阪神淡路大震災を契機に布基礎に代わって、シロアリの侵入しにくいベタ基礎が採用されるようになりました。さらに、それまでは主として北海道で使用されていた外壁断材が本州でも使われるようになり、気密性を高めた省エネルギー住宅へと発展しました。さらには耐力壁を重視した耐震性住宅が奨励され今日に至っています。
参考文献:荒川民雄、シロアリはホウ酸でやっつけなさい:住まいの学校(2013)