1-4  長寿命住宅化リフォーム

科学的根拠
日本の木造住宅の寿命が短い最大の理由は、必然的に易分解性である農薬を木材保存剤として利用するからである。農薬を木材保存剤として使用する限り、木造住宅の寿命が現状から大きく飛躍することはないと思われる。理由は、
1 建築基準法施行令49条2は、木造住宅の地上1メートルまでの主要構造材を防腐防蟻処理するよう義務付けている。これは、木造住宅を守るための最小限度の要求である。
2 農薬は分解しやすく設計されているため、日本シロアリ対策協会はその処理効果の限度を5年と規定し、行政、業界もこれを支持している(資料添付)。

写真2. 床下光景

写真1.新築現場

3 シロアリ駆除業者は、5年ごとの再処理に際し、対象を床下から見える構造材に絞り、外壁内部の構造材を完全に無視している。このため、再処理の終わった時点で外壁内部の構造材は腐朽菌やシロアリに対して無防備であり、住宅は建築基準法違反住宅と化している。外壁内部を再処理しない理由の一つは、既存住宅の外壁内構造材を経済的に防腐防蟻処理する技術が未開発なことによる。
ニュージーランドでは、1950年代にDOT処理を条件にラジアータパインが建材として使用され、その後トラブルは非常に少なかった。このため、DOT処理は元来不要なのではないかとの疑問が起こり、1990年代半ばに高温処理で材食甲虫の卵を死滅させる条件でホウ酸処理を免除した。結果として、2000年頃から大規模な腐れ住宅症候群が発生し、再び防腐処理を義務付けている。結論から言えば、DOTは材食甲虫だけでなく、腐朽菌の繁殖も抑えていたことになる。
(注) DOTは八ホウ酸ナトリウム四水和物(Disodium Octaborate Tetrahydrate)の略称である。腐朽菌、地下シロアリ、カンザイシロアリ、材食性甲虫の防除に世界的に使用されている。はじめ、ホウ酸とホウ砂の混合溶液が使われたが、その後DOT単体として入手できるようになった。
ハワイではクロルデンが禁止された1988年以降、東南アジアから入ったイエシロアリ対策として、構造材を無機系防腐防蟻剤で工場処理することを義務付けている。この方法は、イエシロアリの拡散に伴い米国南部諸州でも実行され、成果を上げている。
建築基準法施行令が公布された当時と比較すると、現在の住宅外壁は省エネルギー的にも耐震構造上にも重要性は高まっている。うかつに外壁構造を変更するのは危険である。このような環境では、無機系防腐防蟻剤による工場処理こそが長期優良化住宅への最善策といえる。既存住宅を長期優良化住宅にわが国の既存住宅のうち、90%以上で外壁内構造材は腐朽・蟻害の危険性に曝されており、厳格に言えば建築基準法施行令49条違反住宅である。この事態から脱却するためには、外壁内構造材を簡易な手段で防腐防蟻処理し、その効果が100年に近い期間を通し持続的に住宅構造材を守る必要がある。
 ホウ酸塩は、木材中の水分を媒体として、濃厚部分から希薄な部分へと拡散する性質がある。ニュージーランド政府は20世紀の半ば、DOT処理を条件に、木造住宅の2×4材として人工林のラジアータパイン材への切り替えを認可した。ラジアータパイン材は、まずDOTの濃厚溶液に浸漬され、次いで木材の乾燥を防ぎながらターポリンに覆われた状態で2か月ほど放置される。この放置過程で表面のホウ酸塩(DOT)は木材の中心部に向かって拡散する。
同様の現象は、スピードは遅いが、使用中の木材を現場処理することでも起こり得る。米国のNISUS社はBoracareに含まれるエチレングリコールとポリエチレングリコールとが有効成分DOTの中心部への拡散を加速すると主張している。また、米国のKop-Coat社はTANO化合物(第3級アミンオキサイド)が同様の効果を持つと発表している。
Nisus社は、カンザイシロアリの防除対策として、外壁内装に径6㎜の孔をあけ、そこからBoracare溶液をミストあるいは泡の形で注入している。同じ手法は外壁内構造材の防腐防蟻処理にも応用できるはずである。

典型的な日本のツーバイフォア住宅の外壁構造では、内部の空間は長さ約2.4m、断面3.8×8.9㎜の柱2本と上下の置かれた同じ寸法の土台と梁に囲まれた体積89.1リットルの空間である。ただし、各々のツーバイフォア材は、両側のセルに50%ずつ属するとした。また、木材の表面積は外壁外側の合板の表面積も加えて15,000㎝ 2 となる。このセルにDOT水溶液をミストあるいは泡として吹き込み、表面積10000㎝2当たり110㎖のDOT水溶液を付着させば、必要な溶液量は165㎖となる。セルを囲む木材量は25.1リットルであり、木材の平均比重を0.4とすれば重量は10㎏となる。従って、吹き込んだ水溶液の水分が全部木材

図1:日本の2X4住宅外壁

に吸収されても、含水率の上昇は高々1.65%である。木材がこの程度の水分を吸収しても問題は起こらない。
また、20%のDOT水溶液(比重1.12)を使用した場合、処理に使われたDOTはホウ酸に換算して44.4gとなる。結局、25リットルの木材の処理にホウ酸に換算して44.4gを使用しているので、平均処理濃度は1.78㎏/m 3 BAEとなる。この量は、地下シロアリ防除には不十分であり、2度処理が必要である。
ただし、腐朽菌、アメリカカンザイシロアリ、材食性甲虫などの防除には十分である。
注: 各害虫の毒性閾値
                                            
地下シロアリ: 3.0kg/m 3    アメリカカンザイシロアリ: 1.0㎏/m 3   
腐朽菌: 1.0~1.5㎏/m 3    材食性甲虫: 1.2kg/m 3
Nisus社のBoracare使用説明書によると、カンザイシロアリ防除には、11% BAEの水希釈液を使用する。典型的な例としては、セル上端近くに径6㎜の孔を3個、下端中央部に1個あける。水溶液の吹込み量は、1セクション(セル)当たり、断熱材のある場合は200㎖、ない場合(屋内の壁)は120mlである。断熱材のある場合は泡処理が普通であり、ない場合はミスト処理を行う。
認定薬剤について
日本木材保存協会は数種類のカテゴリーの防腐防蟻剤を認可しているが、これらの中で長期優良住宅化リフォームに応用できるのは表面処理用(JIS K 1571:2010付属書A(規定)による)認定剤を吹き込む方法である。有効成分が構造材深部まで拡散し、腐朽菌やシロアリの活動を抑えると考えられる。
また、外壁内部の木材を劣化する生物としては、大別して地下シロアリ(イエシロアリ、ヤマトシロアリ)および腐朽菌、食材甲虫、アメリカカンザイシロアリの2群がある。地下シロアリに対するDOTの毒性閾値は3kg/m 3 であり、腐朽菌、食材甲虫、アメリカカンザイシロアリに対する毒性閾値は1.0~1.5㎏/m 3 である。従って、米国で実施されているように、地下シロアリは土壌の化学処理によって侵入を抑え、腐朽菌等の第2群は外壁セルへのDOT水溶液の吹込みで防除する二段階法も考えられる。
                                         以上

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