ホウ酸と(合成)殺虫剤とどちらが安全ですか?よく質問されます。表1に両者を比較しました。結論から申しますと、ホウ酸は農薬よりはるかに安全です。世界保健機構(WHO)によると、世界の自殺者の約3割は農薬自殺で、年間24万人と推定されます。有機リン系の殺虫剤
表1. ホウ酸と合成殺虫剤の有害性を比較する
比較項目 | ホウ酸 | 合成殺虫剤 |
毒性 | 食毒。細胞内で代謝阻害をおこす | 神経の伝達を阻害または攪乱する |
歴史的背景 | 18世紀から消毒に使用され、利点、欠点が詳しく知られている | 使用実績が短く有害性の詳細は不明な点が多い。気付いたときは遅い。 |
室内空気汚染 | 気化しないので汚染源にならない | 室内散布は厳禁 |
事故例 | 誤飲事故が大半 | 慢性的暴露で化学物質過敏症になる母体内暴露による知能低下の可能性 |
を使用するケースが多いようです。これに対し、ホウ酸を飲んで自殺するのは不可能に近い。成人は、2グラムのホウ酸を飲むと嘔吐します。半数致死量とされる200グラムを飲むのは不可能です。ただし、幼児は何をするかわからない。ホウ酸団子の扱いには十分注意してください。
殺虫剤の怖さは、危険性がよく分からないことです。殺虫剤は農作物を害虫から守るために開発されます。普通、数年使用すると耐性を持つ害虫が出現します。新しい殺虫剤に切替えることになります。耐性害虫と新規殺虫剤の宿命的ないたちごっこが続きます。新規殺虫剤の危険性が理解され、対策が講じられるころには、次の殺虫剤に代替わりしていることが多いのです。
2011年4月に、米国のカリフォルニア大学、コロンビア大学、マウントシナイ大学の3研究グループが独立に驚くべき研究報告を発表しました。10年にわたる研究の結果、母親が妊娠時に有機リン系の殺虫剤に汚染すると、生まれた子供の就学時の知能指数(IQ)は最高7ポイント下がるというものです。日本では、IQ測定はしませんが、米国では小学校低学年で必ず実施するようです。ちなみに、IQの7ポイントは、偏差値で約5ポイントに相当します。偏差値が5下がる意味は、受験生を持つお母さんにはよくお分かりと思います。かなり深刻です。
「有機リン系殺虫剤がIQを低下させることは分かった。現在シロアリ予防に使われているのはネオニコチノイドだから安全だ。」という人がいます。しかし、昆虫の神経伝達を阻害し、あるいは攪乱する殺虫剤(神経毒)は、おしなべて神経保護が不完全な胎芽にとって脅威なのです。ヒトは、単細胞の受精卵からスタートし、300日後には3兆の細胞を持つ新生児になります。特に最初の8週間で単細胞から人類までの数十億年の進化の歴史を駆け抜けるといわれます。神経が保護されていない時期に、母体から供給される血液中に微量の殺虫剤が混入すれば、胎芽の成長に不協和音が入ることになります。
米国妊娠学会は、妊娠時の殺虫剤暴露について次のように警告しています。
- 殺虫剤暴露が最も危険なのは、胎芽の神経管が形成される妊娠初期3~8週間です。農薬を使用している農園近くに住んでいる人は、殺虫剤暴露のない場所に転居することを奨めます。
- 妊娠中は、屋内、ガーデニング、ペットの手入れなどの殺虫剤使用は止めてください。
大多数の新築住宅で、シロアリ予防のため畑で使われるよりずっと濃厚な殺虫剤が柱や土台に吹付けられています。これがどんなに無意味で危険な行為か、これまでの議論からお分かりと思います。シロアリの被害に苦しむ先進国の米国やオーストラリアでは、殺虫剤を住宅の木部やコンクリートに吹付けることは禁止されています。しかし、日本では合法的なのです。ただし、最後の決定権は家を購入する消費者にあります。賢い消費者になりましょう。新築住宅木部の防腐・防蟻処理は、ホウ酸のように効果が長持ちし、安全な無機防腐・防蟻剤を使用しましょう。